【背景・目的】小麦タンパク質加水分解物を含む洗顔石鹸による重篤な小麦アレルギーの発症事例が多数報告された。当所では即時型アレルギー誘発経皮感作性試験法を開発し、タンパク質加水分解物を含む様々な化学物質による経皮感作について、解析を進めている。しかし、経皮曝露モデルにおいて、アジュバント作用も検出可能なモデル系としてのバリデーションには、陽性対象物質との比較検討が必要だが、適切な陽性物質がないのが現状である。本研究では、コレラトキシン(CT)及びその無毒な成分であるコレラトキシンBサブユニット(CTB)の経皮曝露によるアジュバント作用を解析した。
【材料と方法】実験1では、BALB/cマウス(8週齢雌)の背部を剃毛し、パッチテスターを用いて溶媒に2 µg オボアルブミン(OVA)及び0.1、1、10 µg CTを加えた懸濁液をマウス皮膚に貼付した(3日間連続貼付/週×4週)。その後血中のOVA特異的抗体価、OVA腹腔内投与によるアナフィラキシー反応惹起ならびに、皮膚、脾臓及びリンパ節の病理組織学的解析を行った。実験2では、OVA及び0.7 µg CTB(1 µg CTの成分濃度)の懸濁液を用いて実験1と同様の実験を行った。
【結果】OVA + CT群及びOVA + CTB群では感作後のIgG1及びIgE抗体価上昇、OVAの腹腔内投与による惹起後の直腸温度低下、アナフィラキシー症状、血中ヒスタミン濃度上昇が溶媒対照群に比べ有意であった。OVA + CT群はOVA単独群に比べ、有意な抗体価の高値を示した。感作部位近傍のリンパ節において、Ki67陽性の濾胞の数が、溶媒対照群と比較して全OVA処置群で増加した。
【結論】OVA + 被験物質の経皮曝露後、OVAを腹腔内投与する本モデルにおいて、CTは明らかなアジュバント活性が認められたが、同じ成分濃度のCTBでは明らかなアジュバント効果は認めなかった。CTは毒素であり、取り扱いが困難であることから、今後、CTBの皮膚毒性及び至適濃度に関する検討が必要と考えられた。