Short Time Exposure(STE)法はin vitro眼刺激性試験法であり、TG491として経済協力開発機構(OECD)の毒性試験ガイドラインに収載されている。STE法は、ウサギ角膜由来株化細胞(SIRC)を用い、被験物質5%、0.05%濃度の溶液を細胞へ直接5分間暴露した際の細胞生存率を指標としている。この暴露濃度により被験物質が未希釈で暴露された際の眼刺激性を予測可能である。一方、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム (GHS)」のNo Category(NC)を区分する際に、STE法で定義する高揮発性物質(蒸気圧 >6kPa, 25℃)は適用限界である。高揮発性物質は調製や暴露の際に被験物質の揮発が示唆されている。偽陰性であった高揮発性物質の選択溶媒はいずれも生理食塩水であった。そして、これら物質は両親媒性物質である。そこで生理食塩水と比べてより被験物質の揮発を抑えると考えられるミネラルオイルに選択溶媒を変更し、眼刺激性を適正に評価可能か検討した。
高揮発性物質について、GHS区分に対する予測性はTG491の方法を用いた際の一致率75.0%(15/20)、偽陰性率57.1%(4/7)に比べ、溶媒をミネラルオイルへ変更することで一致率は95.0%(19/20)に向上し、偽陰性率は0%(0/7)に低減した。さらに高揮発性物質を含めてSTE法のGHS NCを区分する予測性能を確認した結果、一致率86.6%(194/224)、偽陰性率3.8%(3/80)であった。以上より、高揮発性物質におけるSTE法の適用範囲を拡大可能な条件を見出し、GHS NCを区分する際にも予測性が高く、偽陰性率が低い有用な試験法であることが示された。