【背景・目的】ゲムツヅマブオゾガマイシン(GO)は,ヒト化抗CD33モノクローナル抗体と細胞傷害性抗腫瘍抗生物質カリケアマイシンをリンカーを介して化学的に結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate: ADC)であり,日本では2005年の承認以来,急性骨髄性白血病に対する抗悪性腫瘍剤として使用されている。GOの副作用として,静脈閉塞性肝疾患(hepatic veno-occlusive disease: VOD)/類洞閉塞症候群(sinusoidal obstructive syndrome: SOS)の発現が報告されており,肝類洞内皮細胞(LSEC)への何らかの影響が肝毒性の発現に関与すると考えられている。そこで,各種の組織に由来する内皮細胞に対するGOおよびカリケアマイシンによる毒性発現(アポトーシス誘導,細胞傷害およびDNA二本鎖切断)をin vitroで比較することとした。
【方法】ヒト由来初代培養のLSEC,大動脈内皮細胞(HAOEC)および肺微小血管内皮細胞(HLMVEC)にGOを添加し,caspase 3/7活性(アポトーシスマーカー)および細胞内ATP量(生存細胞マーカー)をそれぞれGO添加後24および72時間に測定した。また,各内皮細胞にカリケアマイシンを添加し,添加後0.5,1,2および4時間にDNA二本鎖切断マーカーであるヒストンH2AXのリン酸化を免疫染色法により定量した。
【結果・考察】各内皮細胞にGOを添加した結果,caspase 3/7活性はLSECでのみ認められ,他の内皮細胞ではみられなかった。また, ATP量の減少はLSECで最も顕著であった。カリケアマイシン添加によるリン酸化H2AX発現増加がいずれの内皮細胞においても認められたが,LSECで最も高値であった。これらのことから,LSECはGOおよびカリケアマイシンの毒性に対する感受性が高いことが示唆された。内皮細胞の形態や機能は発現組織によって異なることが知られており,その多様性がin vivoでの標的臓器毒性の発現に関与している可能性が考えられた。