【背景・目的】グルタチオン (GSH) は肝臓で合成され、細胞内で発生した活性酸素種や過酸化物を還元することにより抗酸化作用を有するトリペプチドである。GSH抱合により薬物の解毒を行う為、GSH枯渇モデル動物は薬物の毒性評価に用いられる。しかし、GSH枯渇の臓器への影響に関する報告は少ない。本研究ではʟ-Buthionine (S,R)-sulfoximine (BSO) によるGSH枯渇が臓器に与える影響を検討した。
【方法】6週齢雄性C57BL/6Jマウスに12時間毎の絶食条件下で、BSO 1000 mg/kgを1日2回12時間毎に腹腔内投与にて7日間処置した。8日目に血漿、尿、腎臓、骨格筋および肝臓を採取した。血漿生化学値に加え、腎臓および筋肉の組織評価を行った。さらに各臓器におけるmRNA発現量、GSH量の測定および血漿中miRNA発現量の測定を行った。
【結果・考察】BSO処置群では、8日目にコントロール処置群と比較して血漿中及び尿中のBUN、CRE値が優位に上昇し、腎臓mRNA 発現では腎障害マーカーであるNgal及びKim-1で有意な発現上昇を認め、腎組織学評価においても尿細管障害が認められた。さらに血漿中のCPK値、AST値の有意な上昇、血漿中筋特異的miRNA発現の有意な上昇、筋組織の壊死を認め、血漿中、尿中及び腎組織中でMbが認められたことより、筋障害に誘発された急性腎障害の発症が考えられた。腎組織中のmRNA発現では、Ho-1やIl-6の有意な発現上昇を認めた。血漿中の肝特異的miRNA測定や肝mRNA発現の結果より、肝臓への影響は軽度であった。本研究は全身のGSHを枯渇させることにより、骨格筋障害から引き起こされる急性腎障害が発症することを明らかとし、新たな急性腎障害モデルの一つとなり得ることを示す。