【背景及び目的】非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者の一部は非アルコール性脂肪性肝炎、線維化を経て肝細胞がんへと進行するが、脂肪肝から肝細胞のがん化に至る分子機構は十分には解明されていない。本研究では、肝前がん病変形成に対するオートファジーの関与を明らかにするために、脂肪肝関連発がんモデルを用いてオートファジー抑制剤クロロキン(CQ)および促進剤アミオダロン(AM)投与の影響を検討した。【方法】5週齢雄性F344ラットを用い、各群10または11匹で基礎飼料(BD)群、高脂肪飼料(HFD)群、HFD+CQ群、HFD+AM群の4群構成とした。HFD給餌開始1週間後に、中期肝発がん性試験法に従い発がんイニシエーターdiethylnitrosamine(DEN)を単回腹腔内投与し、2週間後から0.1% CQ、0.5%AMを飲水投与した。DEN処置後3週目に2/3部分肝切除を行い、試験8週目に解剖した。【結果】腹腔内脂肪重量はHFD群で有意に増加したが、CQ、AM投与による影響はなかった。肝臓のNAFLDの指標であるNAFLD activity score(NAS)はHFD群で有意に増加し、AM投与でさらに増加する傾向がみられた。免疫染色では、AM投与により前がん病変指標GST-P 陽性巣数がHFD群と比較して有意に減少し、その合計面積は減少傾向を示した。GST-P陽性巣内の細胞増殖指標Ki-67陽性細胞数は、AM投与で減少傾向を示した。肝臓の遺伝子発現解析では、オートファジー関連遺伝子(Atg5)の発現がAM投与により有意に増加した。 脂肪代謝関連遺伝子(Fasn, Scd1)の発現はHFD群で有意な減少がみられたが、AM投与の明らかな影響はなかった。また、脂肪肝、肝発がんにCQ投与による影響は認められなかった。【考察】オートファジー促進剤AM投与により前がん病変が減少し、オートファジー関連遺伝子の発現が亢進していたことから、NAFLD関連肝発がんに対するAMの抑制作用にオートファジーの関与する可能性が示唆された。