【背景と目的】生体内の生理的代謝過程で産生される活性酸素はその産生と防御のバランスが崩れると、細胞や組織の傷害が進み、酸化性ストレスという状態に陥る。酸化性ストレスは発がんや脳卒中、アルツハイマー病等の疾患に関与していることが明らかになっている。これに対して、食品は抗酸化作用を示す化合物を含んでおり、近年ではこれらの天然由来の抗酸化作用に着目した抗酸化剤が注目されている。一方、脳の一部を形成する海馬には、生後に神経新生を繰り返す歯状回が存在し、記憶形成や抗うつ作用を担っている。神経新生部位は高酸素要求性であり、活性酸素を発生させる。そこで、本研究では、神経発生や神経新生の活発な発達期からの抗酸化物質の投与による成熟後での神経行動への効果を検討した。【方法】食品に使用されている抗酸化物質とαリポ酸 (ALA)を用い、妊娠SDラットに対して妊娠6日目 (GD 6)から離乳時である出生後21日目 (PND 21)まで、児動物に対しては離乳後からPND 77まで、それぞれ0.5%、0.2%濃度で混餌投与した。【結果】両群共に、免疫組織染色ないしTUNEL法にて歯状回顆粒細胞層下帯における神経新生関連の顆粒細胞系譜指標陽性細胞、増殖細胞とアポトーシス、歯状回門部におけるGABA性介在ニューロンの数は変動しなかった。食品使用抗酸化物質では、シナプス可塑性にかかるc-Fos陽性成熟顆粒細胞数が増加し、恐怖条件付け試験消去学習にてフリージングが減少した。一方、ALA群ではいずれも変化しなかった。Real-time RT-PCR解析では両群ともに歯状回でFos、Slc17a6、Chrm2、Ntrk2のmRNA発現が増加した。【考察】食品使用抗酸化物質では消去学習の促進が認められ、c-FOS関連のシナプス可塑性の増強がその理由であると考えられた。以上より、食品使用抗酸化物質の発達期からの投与は恐怖記憶を原因とする心的外傷後ストレス障害(PTSD)に有効である可能性が示唆された。