気管内投与は、気管内に被験物質を直接投与する投与法であり、吸入経路でのばく露が懸念される物質を対象とした有害性スクリーニング評価に有用である。しかしながら、非生理学的な投与経路であることから、吸入経路による全身影響よりも、投与部位局所における反応が結果に大きく影響することが懸念される。そこで本研究では、投与液の刺激性の指標として細胞毒性に着目し、肺由来線維芽細胞株(V79)を用いた細胞毒性試験及びラットを用いた気管内投与試験を実施し、両者の結果を比較した。吸入経路でのばく露が懸念される化学物質であるエチレングリコールモノブチルエーテル(EGMBE、吸入GHS分類:区分2)、テトラヒドロフラン(THF、吸入GHS分類:区分外)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、吸入GHS分類:区分3)を被験物質とした。細胞毒性試験では、V79細胞を含む培地に6.25、12.5、25、50 w/v%及び100%の各被験物質を添加し、6時間培養した後、WST試薬を用いて細胞生存率を求め、IC50値を算出した。その結果、各物質のIC50(添加濃度ベース)はEGMBEで7.6 w/v%、THFで31.1 w/v%、DMFで67.1 w/v%であった。次に、得られたIC50を参照し、複数濃度の被験物質液を調製して、SDラット(12~13週齢)に単回気管内投与を行った。投与液量は2 mL/kg体重とし、アップダウン法によりLD50推定値を算出した。その結果、各物質のLD50推定値はEGMBEで83 mg/kg体重、THFで200 mg/kg体重、DMFで800 mg/kg体重であった。細胞毒性試験から得られたIC50と気管内投与試験から得られたLD50推定値は一定の相関傾向を示した(R2=0.9388)ことから、気管内投与により得られたLD50推定値は、投与部位局所での刺激性を大きく反映したことが示唆された。年会では、細胞毒性と気管支肺胞洗浄液検査の各項目の関連性についても併せて報告する。