近年、動物愛護の観点から哺乳動物を用いる既存毒性試験の代替法として、ゼブラフィッシュ(ZF)胚を用いた評価系が注目されている。この評価系は、生体内で生じる複雑な薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)を考慮できるという利点があるが、これまでZF胚の薬物動態に関して詳細に研究した例は少ない。そこで、我々は昨年までの日本毒性学会学術年会において、吸収及び排泄に関する知見として、脂溶性の差異により胚中濃度の時間推移の挙動が異なることを報告した。しかしながら、ZF胚の代謝に関する研究例は少なく、ヒトとの類似性に関してもほとんど明らかではない。そこで本研究では、ZF胚の代謝機能を調べるため、ヒトにおいてそれぞれ異なるシトクロムP450(CYP)アイソフォームによって代謝されることが既知である医薬品3種について、ZF胚における親物質及び代謝物の胚中濃度を測定した。ジクロフェナクナトリウム(DF、3.2 mg/L)、カフェイン(CA、10 mg/L)及びテストステロン(TS、10 mg/L)水溶液に、ZF(NIES-R株)の受精卵を28±1℃の環境下で受精後約4時間(4 hpf)~120 hpfまでそれぞればく露した。その後胚を取り上げ、洗浄及び前処理後に親物質及びヒトCYP代謝物の胚中濃度を液体クロマトグラフィー-質量分析法にて測定した(それぞれ3例で実施)。その結果、DFにばく露されたZF胚において、ヒトで産生される代謝物4’-ヒドロキシジクロフェナク(4’-OHDF)が検出された。ZFの肝臓形成前である50 hpfのDF及び4’-OHDFの胚中濃度は、それぞれ1.23±0.10 ng/larva及び6.06±0.50 ng/larva、肝臓形成後の120 hpfでは0.463±0.093 ng/larva及び1.14±0.32 ng/larvaと算出された。この結果から、ZFは肝臓形成に依存せず、50 hpfの時点でヒトと同様のDF代謝機能を有していることが示唆された。本発表では、CA及びTSの分析結果も併せて報告する。