近年、ペット動物に対するポリ塩化ビフェニル(PCBs)および水酸化代謝物(OH-PCBs)の曝露による甲状腺ホルモン(THs)の恒常性への影響が注目されている。本研究ではPCBs曝露がペット動物のTHs恒常性に及ぼす影響を明らかにするため、イヌ・ネコのPCBs投与試験を実施し、PCBs曝露に伴う血清中THs濃度の変化を解析した。
PCBs投与後から5日間、継続的に血清を採取し、THs濃度の変化を解析した結果、ネコ血清中THs濃度は、総THs、遊離型THsともに対照群と投与群の間に有意な変化は認められなかった。一方、イヌ血清中総THs濃度は投与群において、総L-サイロキシン(T4)と総3,5,3’-トリヨード-L-サイロニン(T3)の減少傾向がみられ、総PCBs濃度は総T4、総T3濃度と有意な負の相関を示した(p < 0.01)。一方、遊離型T4、遊離型T3濃度では、対照群と投与群の間に経時的な変化は認められなかったが、曝露後48、96時間目で有意に増加した(p < 0.05)。加えて、遊離型T4濃度は総OH-PCBs濃度と正の相関を示し(p < 0.01)、異性体別ではT4様構造の高塩素化OH-PCBsで同様の傾向が認められた。上記の結果および先行研究から、PCBs曝露によるイヌ血清中THsへの影響を推察した。PCBsがT4様構造のOH-PCBsへ代謝されてTHs輸送タンパクに競合結合し、結合できない遊離型T4が血中に増加することで、THsの臓器・組織への取り込み量が増加したと予測される。その結果、イヌ肝臓中のTHs濃度は増加し、PCBs曝露により肝臓中のAhR・CARが過剰に誘導されることで、UGTおよびSULTが誘導され、THsの抱合化を促進することで体外排泄量が増加し、血清中総T4、T3が減少したものと推察された。