【背景・目的】肝臓は高い再生能により、薬物性肝障害発症後に休薬にすることで多くの場合は回復する。しかし、稀に回復遅延や障害増悪が起因と考えられる肝障害の重篤化が臨床上問題である。我々は、その一因として薬物による肝再生過程の阻害を想定している。これまでに、肝細胞の増殖・分化の過程で肝細胞間に再形成される毛細胆管構造に着目したin vitroの検討から、各種薬物による毛細胆管伸長阻害の程度と臨床での肝障害重症度に一定の相関が認められることを報告した(Takemura A. et al., Toxicol In Vitro. 35:121-30. 2016)。一方、薬物による毛細胆管の再形成阻害がin vivoでも観察されるのか、さらにはこれが肝障害の回復遅延に繋がり得るかについては不明である。そこで本研究では、臨床で劇症肝炎報告のあるベンズブロマロン(BBR)をモデル薬物とし、マウスin vivoの系でこの点を検証することを目的とした。
【方法】C57BL6/Jマウスにチオアセトアミド(TAA)もしくは3,5-ジエトキシカルボニル-1,4-ジヒドロコリジン(DDC)を4週間投与して肝障害誘発後、通常餌あるいは0.3% BBR含有餌を4週間投与した。血漿肝マーカーの経日測定と共に、最終日には単離した肝臓で組織免疫染色を行って毛細胆管構造を評価した。
【結果・考察】TAA及びDDCを4週間投与直後には毛細胆管構造の著しい消失が見られ、いずれの場合も通常餌に切り替えてから4週間後の時点で回復を認めた。一方、BBR含有餌へ切り替えた群では完全には回復しなかった。このとき、血漿中ALT値は、通常餌への切り替え群に比べてBBR含有餌への切り替え群で有意に高かった。BBRが毛細胆管構造の再形成を阻害し、このとき肝障害の回復も遅延していることが示された。
【結論】毛細胆管構造の再形成を薬物が阻害し、これが肝障害の回復遅延につながる可能性をin vivoの実験系で示すことができた。