Positron Emission Tomography(PET)は、生体内の生理的・生化学的情報を「生きたままの状態」で定量計測できる核医学的手法の一つである。生理的・生化学的情報はPETプローブの動態・分布から評価するが、近年のPETプローブの飛躍的な進歩に伴って、患者の診断・治療効果判定のみならず、医薬品開発において、実験動物を対象にした基礎研究からヒトを対象にした臨床開発への「橋渡し研究」に活用されている。一方、毒性分野におけるPETの応用は、これまで適切なバイオマーカーになり得るPETプローブが存在しなかったために、医薬品開発への応用に比べて遥かに立ち遅れていた。我々は、細胞のエネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)の生産に関与している細胞内小器官であるミトコンドリアの機能を、計測できる新規PETプローブを開発して、アルツハイマー病(1)・パーキンソン病(2)・脳梗塞(3)等の神経変性疾患の早期診断に有用であることを報告した。更に、近年このミトコンドリア機能計測用のPETプローブを用いることで、様々な肝臓・腎臓の機能障害を、従来の血液パラメータよりも早期に検出できる可能性を見出した(4)ので、本シンポジウムではいくつかの実例を示しながら報告する。
<参考文献>
1) Tsukada H, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2014;41:2127-2136.
2) Kanazawa M, Tsukada H, et al. J Nucl Med. 2017;58:1111-1116.
3) Tsukada H, et al. J Cereb Blood Flow Metab. 2014;34:708-714.
4) Ohba H, Tsukada H, et al., EJNMMI Res. 2016;6:82