日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: S5-5
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シンポジウム5
ジスチグミン臭化物によるコリン作動性クリーゼの臨床
*小野寺 誠伊関 憲藤田 友嗣菊池 哲藤野 靖久井上 義博
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抄録

 重症筋無力症や排尿障害治療薬であるジスチグミン臭化物は、カーバメート系コリンエステラーゼ阻害剤に属し、可逆的な抗コリンエステラーゼ作用を有する薬剤であるが、漫然と投与することによりアセチルコリン過剰状態でかつ呼吸困難を伴う病態であるコリン作動性クリーゼに陥るときがある。コリン作動性クリーゼの発生頻度は0.2%と稀ではあるが、65歳以上の症例や投与開始後2週間以内に多くが発生していることから注意を要する。

 臨床的にはアセチルコリンエステラーゼ阻害による副交感神経優位の諸症状が出現する。すなわち、ムスカリン受容体作用優位の症状である流涎、気道分泌過多、発汗、縮瞳、嘔気、徐脈、腹痛、下痢、ニコチン受容体作用優位の症状である呼吸筋筋力低下、振戦、線維束攣縮が出現し、重症になると意識障害、痙攣、呼吸筋麻痺から心停止にいたる。

 血液検査上、血清コリンエステラーゼの著明な低下が特徴的である。しかし、低用量で長期間内服している患者ではコリンエステラーゼの低下が緩徐であることからクリーゼの前段階であるアセチルコリン過剰状態を見逃すことがある。

 診断において最も重要なことはジスチグミン臭化物の服用を確認することである。既往歴から服用量や服用期間を聴取し、可能であれば血中および尿中ジスチグミン臭化物の同定・定量を検査機関等に依頼する。分析器機として半定量式高速液体クロマトグラフィによる自動毒薬物分析装置、ガスクロマトグラフ質量分析計、液体クロマトグラフ質量分析計などが用いられる。

 治療のポイントは原因の除去と対症療法が中心となる。消化管除染により原因物質を体外へ除去する。ムスカリン様作用による副交感神経刺激症状に対する対症療法としてアトロピン硫酸塩水和物を、ニコチン様作用による呼吸筋麻痺に関しては呼吸管理を行う。

 予後は比較的良好であるが、救命しえなかった報告もあり早期診断、早期治療が重要である。

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