日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: S6-5
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シンポジウム6
ナノマテリアルの慢性影響評価手法としての気管内投与試験法と短期間曝露試験法の妥当性について
*広瀬 明彦
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抄録

ナノマテリアルの健康影響に関して、これまでにOECDやEUにおけるナノマテリアルの安全性に関するプロジェクトにより多くの知見が集積されてきたが、ナノマテリアルの本質的な健康上の懸念となっている慢性影響についてはそれほど多くの研究は報告されていない。特にカーボンナノチューブ(CNT)による吸入暴露による慢性影響については、現在のところMWNT-7のみにおいて2年間の吸入曝露発がん性試験が実施されたにすぎず、その他の数多くのナノチューブの慢性影響を評価できる公表データは存在しない。我々がこれまでに行ってきた腹腔内投与試験において長い線維を多く含むナノチューブほど中皮腫誘発性が強いことを示唆してきたが、この知見がどのくらい吸入曝露による影響を反映しているかについては、さらにいくつかのCNTによる慢性吸入曝露試験が必要となる。しかし、さらなる慢性吸入曝露試験の実施は、2年間の慢性吸入曝露を行う設備を持つ実験施設は国際的においてもその数が限られている現状を考慮すると実施可能性は低く、現実的な対応として慢性吸入曝露実験を代替できる評価法の開発が必要であると考えられる。一方、短期間の気管内投与による慢性観察試験においても腫瘍を引き起こすことが確認されており、粒子状物質が肺に長期間蓄積することにより慢性影響を示すことが示されている。このような手法は実験期間を短縮させることはできないが、吸入曝露を行うための特別な設備を必要とせず、非溶解性の粒子に限定される手法ではあるものの慢性影響を評価できる手法として有用であると思われる。さらに研究を進めて、肺内負荷量や分子マーカーと発がん性の関係性を解析できれば、短期間の気管内投与により慢性影響を評価できる試験系を開発できるようになるかもしれない。本講演では、CNTのような長期間体内に残留する粒子状物質の慢性吸入曝露影響を評価するために有用と思われる気管内投与試験法や短期間曝露による長期間観察試験の妥当性について考察する。

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