日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: W6-1
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ワークショップ6
腎毒性の病理変化とバイオマーカー変動
*甲斐 清徳
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抄録

急性腎障害(Acute kidney injury: AKI)は入院患者の1~7%とされ、AKIのうち薬剤性腎毒性は19~33%を占める。AKIにより急激にglomerular filtration rate(GFR)が減少し、その持続により血中の尿素窒素(UN)やクレアチニン(CRE)が増加するが、それらの血中バイオマーカー(BM)が増加する状況では約50%以上の腎機能不全に陥っていると考えられている。腎臓は糸球体及び各種尿細管上皮からなるネフロンを最小機能単位としている。特に、近位尿細管上皮は生体必須物質の再吸収と異物の尿細管分泌を担う細胞であり、様々な薬剤の急性腎障害における組織傷害の多くが近位尿細管に観察され、アミノグルコシド抗生物質、シスプラチンなどの化学療法抗がん薬、シクロスポリンなど免疫抑制薬、カドミウムなどの環境汚染物質が近位尿細管上皮に組織傷害を起こす物質として知られている。腎毒性の非侵襲性バイオマーカーとして血中のUN及びCREが測定されているが、非臨床安全性試験で腎臓に組織傷害がみられるにも関わらず、これら血中BMが異常値を示さない事は少なくない。ラットを用いた検討結果を基に、安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium)は、アルブミン、kidney injury molecule-1、clusterin、neutrophil gelatinase-associated lipocalinなど9種の尿中BMがUNやCREよりも感度及び特異性が高くAKIを検出できるBMであるとして提唱し、FDA、EMEA及びPMDAはそれを支持している。非臨床安全性試験で汎用されるげっ歯類であるラット及び非げっ歯類(イヌ、カニクイサル)で種々の薬剤誘発AKIがみられるが、その病理変化、尿中BM及び関連蛋白及び遺伝子の変動は様々であり、薬剤によって変動する尿中BMが異なる事が多い。また、これらBM測定は抗原抗体反応を用いることから、非げっ歯類に適用できる測定系が限られており、個体差、日間差が大きい事もそれらBM変動意義の判断を難しいものにしている。本発表では、種々BM変動を組織学的変化及び毒性機序と関連づけて解説するとともに、腎毒性評価上の課題と今後の展望について概括する。

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