日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: W6-2
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ワークショップ6
ヒトL-FABPゲノム遺伝子導入マウスを用いた腎毒性評価
*菅谷 健
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抄録

腎毒性を疑う臨床事例としては尿細管間質障害を伴う急性腎障害(AKI)が最多であり、血清クレアチニンのわずかな上昇であってもその生命予後は不良である。安全性評価の観点からも真の腎予備能を反映する早期診断・モニタリングに有用な新規バイオマーカーの活用は重要と考えられる。本講演では、すでに臨床使用されている腎毒性指標である尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)を、非臨床フェーズで再評価するトランスレーショナルな試みとしての事例1)~3)を紹介する。

ヒトL-FABPゲノム遺伝子は4つのエクソンからなる翻訳領域を含み、その上流の転写調節領域には虚血や脂質代謝に関わる核内因子の結合モチーフが確認されている。マウスでは、その転写調節領域に臓器特異的なサイレンサーが存在し腎臓における発現は抑制されている。そこで、ヒトL-FABPの転写調節領域を含むゲノム遺伝子を導入し、尿中に排出されるヒトL-FABPにより腎毒性のモニタリングを評価できるトランスジェニック(Tg)マウスを作製した。

Tgマウスを用いて、シスプラチンやNSAIDsなどの薬剤性腎障害モデルを評価した結果、ヒト腎臓と同様の転写調節機能を獲得していることが実証された。また、尿細管周囲血流をCCDビデオ撮影により計測した結果、微小循環障害の程度に応じてL-FABPが速やかに尿中排出されることが明らかとなった。Tgマウスの腎臓に発現誘導されるヒトL-FABPは近位尿細管の細胞質に局在し、虚血や酸化ストレスに応答して尿中モニタリングが可能であると考えられる。Tgマウスの開発を通して、非臨床バイオマーカーを臨床評価に橋渡しする上での課題にも言及したい。

1) Yamamoto T, et al., J Am Soc Nephrol.(2007)

2) McMahon BA, Murray PT. Kidney Int. (2010)

3) 鈴木慶幸, 毒性質問箱 (2017)

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