近年、腎臓の近位尿細管障害の指標として、様々な尿中バイオマーカーが活用されている。それらのマーカータンパク質が尿中に排泄される機構は、1.原尿中のマーカータンパク質が再吸収障害によって尿中に排泄される、2.細胞障害に応じて近位尿細管細胞でマーカータンパク質が誘導合成されて尿中に分泌される、という2種類の機構が考えられる。カドミウム(Cd)は近位尿細管障害を引き起こすことが知られている。しかし、上記の1, 2のそれぞれにどのような影響を及ぼすのか詳細は不明な点が多い。
そこで、1. の尿細管での再吸収障害の機構をin vitroで解析するために、マウスの近位尿細管由来細胞(S1細胞)を用いて、エンドサイトーシスによるタンパク質の細胞内取り込みを測定する系を樹立した。タンパク質として、albumin, transferrin, β2-microgloblin, metallothionein, liver-type fatty acid binding protein(L-FABP)を蛍光標識した。蛍光顕微鏡によってこれらのタンパク質の細胞内への取り込みを可視化し、flow cytometryにより取り込み効率を定量的に評価した。2. の細胞傷害に応じて誘導される腎障害マーカーであるKim-1、clusterinなどの分泌型タンパク質の発現変化はmRNAレベルで解析した。Cd曝露による影響を1, 2について検討した結果、Cdは、S1細胞への多くのタンパク質の再吸収効率を低下させた。また、腎障害マーカーのKim-1 mRNAはCdによって誘導されたが、clusterinはあまり反応しなかった。本系を活用すれば、Cdのみならず様々な腎障害誘発物質による尿細管再吸収への影響をin vitroで評価することができ、その毒性発現機構の解明に役立つ可能性があり、今後応用が期待される。