日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: W8-4
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ワークショップ8
非げっ歯類ゲノム解析への臨床からの期待
*斎藤 嘉朗中村 亮介
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抄録

ヒトにおける医薬品の薬物動態、有効性や副作用発現に個体差があることは周知の事実である。個体差をもたらす要因としては、外因性の要因と内因性の要因があり、前者の例としては食事、嗜好品等が知られている。一方、内因性要因では、遺伝子多型に関する情報が、近年のゲノム解析の進展により急速に蓄積されている。

例えば、薬物動態関連では、薬物代謝酵素の遺伝子多型がよく知られている。オメプラゾールを代謝するCYP2C19では、酵素活性の消失をもたらす2種の頻度の高い一塩基多型が知られており、ピロリ菌除菌の成功率に影響を与えることから、治療前の診断が先進医療として行われていた。また抗がん剤イリノテカンの骨髄抑制に関し、活性代謝物の解毒代謝を担うUGT1A1の2種の酵素活性減少をもたらす遺伝子多型が、その発症頻度を左右すると報告され、コンパニオン診断薬が開発された。さらに近年では、薬物性肝障害や重症薬疹等、特異体質性副作用として機序が不明であった重篤副作用に関しても、HLAタイプとの関連が報告されている。これらの知見は、頻度の低いものは医薬品の市販後に蓄積し、頻度の高いものは臨床試験段階で明らかになるものの、重篤な副作用が発現した場合、当該医薬品の開発・販売が中止になる可能性もあり、可能な限り非臨床段階で予見できることが望ましい。

この問題は、ヒト細胞やその画分等を用いたin vitro試験系の充実と、ヒトに近いサル等の非げっ歯類におけるゲノム解析に基づく個体差の評価系開発により解決できると考える。近年、前者については、遺伝子多型を有する薬物代謝酵素を発現したミクロソーム等が多くの種類に関して販売されているが、後者は遅れている。サルゲノム解析の進展、サルとヒトの薬物代謝酵素やMHC等の副作用関連タンパク質の構造的・機能的相同性に関する体系的な情報の蓄積、非臨床における活用事例の報告等が強く望まれる。

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