日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: EL4
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教育講演
リスクアナリシスに基づいた食品あるいは水中の化学物質のリスク評価
*吉田 緑
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抄録

食品が安全であることは公理であり定理ではないといわれる。一方で食品安全にはゼロリスクも存在しない。食品の国際基準を決めてきたコーデックス委員会が人々の健康保護を最優先に掲げて「科学」を基本とした食品安全の枠組み「リスクアナリシス」を構築してから20年、我が国がその枠組みを導入してから15年が経過した。リスク評価はこの枠組みの構成要素の一つであり、懸念の対象となる化学物質や微生物などのハザードについて科学的知見に基づき解析し、人々への健康のリスクを科学的判断により導き出す役割を担う。もう一つの構成要素であるリスク管理ではリスク評価結果を基に人々の健康が保護されるよう適切な措置を講じる。しかし人々の関心は未だにリスク評価結果でなく、発がん性の有無に代表されるようにリスク評価の最初の段階であるハザード評価に集中しているように思える。また残念ながら我が国では、人々がそのハザードを現実的にどのぐらい摂取しているかというデータに基づく曝露評価や、その現実的な曝露量で健康への懸念が起きうるのかというリスク判定に関する議論が国際的なレベルに至らない場合も多い。施設内で行われる動物実験とは異なり、人々の食生活は地域により多様であることから、曝露評価によるハザードの国ごとの摂取量の適切な推計は、その国の人々の健康を守るため必要である。近年では目覚ましい科学技術の進歩とともに、新たな機能や特定の機能を付与された食品の開発や、残留成分の分析法の精緻化が進んでいる。現在国内外で取組みが進められているが、ハザードのばく露評価を基軸とした食品のリスク評価へと歩を進める時期が到来したと言わざるを得ない。そこで本講演では、会場の皆様とともにもう一度食品のリスク評価の基本的構造や理念を復習し、曝露評価を重要性について再確認したい。本講演が、続くシンポジウムでの各専門家の講演の一助となれば幸いである。

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