【目的】薬物性肝障害(Drug-Induced Liver Injury: DILI)は患者、臨床医及び製薬メーカーにとって関心の高い有害薬物反応であり、予測が困難とされている。臨床上では、アミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇をDILIの一つの指標としているが、肝障害の重症度はALT上昇だけでは判断できない。よって、重篤な DILI を引き起こす薬剤とそうでない薬剤を見分けるアプローチが必要と考えられる。我々は、臨床上、比較的高い割合で肝障害を引き起こす薬物8種類(hTOX)と殆ど肝障害が報告されない(non-hTOX)をヒト肝細胞キメラマウスに投与し、重篤なDILI を引き起こす薬剤のみで変動がみられるバイオマーカーの探索を試みた。
【方法】LD50の1/10量のhTOX(テルビナフィン塩酸塩、チクロピジン塩酸塩、アセトアミノフェン、アミオダロン塩酸塩、ベンズブロマロン、バルプロ酸ナトリウム、メトトレキサート、ジクロフェナクナトリウム製剤)及びnon-hTOX(セファレキシン、ソタロール塩酸塩、フルシトシン)をそれぞれ、ヒト肝細胞キメラマウス(PXBマウス®:フェニックスバイオ)に1日1回3日間、経口投与した(各n=3)。最終投与の24時間後にヒト肝臓からtotal RNAを抽出し、マイクロアレイにより、mRNA及びmiRNAについて遺伝子発現解析した。hTOXでのみ遺伝子発現量の比(Fold-Change)が1.5以上増加もしくは0.67以下に減少した遺伝子を抽出し、重篤なDILI を引き起こす薬物バイオマーカーとした。
【結果・結論】8種類のhTOXのうち4種類以上の薬物で変動が確認され、かつnon-hTOXでは変動が見られなかったmiRNAは22種類であり、中でも霊長類得的に発現し、血液中に分泌が確認されるmiRNAはmiR-4306及びmiR-3149であった。この2種類のmiRNAは臨床において、重篤なDILI を引き起こす薬剤のみで変動するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。