我々は、肝臓がヒト肝細胞で高度に置換されたキメラマウス(PXBマウス®)を安定的に大量生産する技術を確立している。このPXBマウス®から採取したヒト新鮮肝細胞(PXB-cells®)は、同一ドナーのヒト新鮮肝細胞を即応的に大量に入手できるという利点を持つ。本研究では、PXB-cells®を用いて、肝毒性の中心的な役割を担っているミトコンドリア毒性をin vitroで簡便に評価する系の開発を進めている。
ミトコンドリア毒性をin vitroで評価する上で問題となるのが、生理的条件よりも、酸素供給量が低く培地中のグルコース濃度が高いことから、ミトコンドリア毒性の感度が低くなっていることである。そこで、PXB-cells®を用いて、酸素供給量を高めた条件で、かつ通常使用している低グルコース基本培地のグルコースをガラクトースに置換した培地で培養することにより、ミトコンドリア毒性の感度が上昇するかの検討を行った。
酸素供給量を増やすため、酸素透過膜プレート(ベセル株式会社)とマルチガスインキュベーターを使用し、ミトコンドリア電子伝達系複合体Ⅰ阻害剤であるRotenoneの細胞毒性に対する感受性を細胞内ATP濃度と上清中のLDH活性を指標に検討した。
その結果、酸素供給量が多い方が、より低濃度でRotenoneによる毒性が見られた。LDH活性では、ガラクトース置換培地の方がより低濃度で毒性を示したが、、細胞内ATP濃度では、培地による差は顕著ではなかった。各酸素供給量における、細胞周囲の酸素濃度をモニタリングしたところ、ガラクトース置換培地に比べ、グルコース培地で細胞の酸素消費量が高く、PXB-cells®は、グルコース培地で十分にミトコンドリアの活性が高いことが推察された。
今後は、高酸素供給量・低グルコース基本培地条件下で、肝毒性を示す種々の化合物を用いた検証を行い、評価系の確立を目指す。