亜鉛は生体内必須微量元素の1つであり,生体内の様々な酵素等に存在する。亜鉛不足による生体への影響は,貧血や皮膚炎など様々である。近年では食生活の変化に伴い亜鉛不足が問題視されており,亜鉛欠乏を対象とした食品や医薬品の開発が期待される。亜鉛欠乏及び亜鉛の毒性評価のためには亜鉛の定量が必要である。従来,生体試料中の亜鉛の測定には,誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)あるいは原子吸光法が多く用いられてきた。近年では比色測定試薬が開発され自動分析装置でより簡便に測定が可能になったが,亜鉛化合物を生体内に投与した時の血漿中亜鉛濃度を定量する方法としての妥当性は明らかではない。そこで本研究では亜鉛化合物を投与し,比色分析及びICP-MSの2つの方法で血漿中亜鉛を定量して比較することを目的とした。
亜鉛錯体であるジンクピリチオンを,2, 5及び10 mg/kg/dayの用量で各群3匹ずつの雄ラットに経口投与した。10 mg/kg投与群は13日間,その他の群は14日間投与を行った。各群において最終投与の約24時間後,イソフルラン麻酔下で開腹し,後大静脈よりヘパリン処理した注射筒で約5 mL採血した。遠心分離して血漿中亜鉛濃度を2つの方法,すなわち(1)亜鉛比色測定試薬を用いた自動分析装置による測定,及び(2)ICP-MSで定量した。
両測定において,媒体対照群と比較して10 mg/kg投与群の血漿中亜鉛濃度は有意に高かった。また,両測定の測定値を比較すると,比色測定法の方がICP-MSの測定値より高値を示す傾向がみられた。本研究で用いた比色法では,試薬によってタンパク質から遊離させた亜鉛をキレート化し,形成した錯体の吸収極大近傍の吸光度を測定する。比色法の方が高値を示した原因として,何らかの生体内物質が試薬反応や吸光度測定などの測定過程に影響を与えた可能性が考えられる。なお,現在より多くの例数を用いた試験を計画しており,検討結果を会場にて報告する予定である。