私たちは天然中鎖脂肪酸をリードとして、新規抗がん物質palmitoyl piperidinopiperidine(PPI)を創製した(特許第5597427, 2014)。PPIは転写因子STAT3を介してヒト大腸がん細胞へのcytotoxicityを発揮する(日本毒性学会, 2018)。PPIは腫瘍選択性に優れ、アポトーシス誘導能、血管新生抑制効果をもつ。QSAR解析にてPPI構造内のピペリジンに存在するN(窒素)原子の求核性が抗がん効果の発揮に重要であることがわかったため、N原子の求核性を向上させた化合物1121/1112を設計・合成した(特許審査請求中)。本研究では1121/1112のcytotoxicityおよび作用機序について解析した。ヒト大腸がん細胞株に対するIC50値は1121<1112<PPI<STAT3阻害剤(CTS)<5FUであった。1121/1112ばく露ではヒト大腸がん細胞株HT29を90%死滅させる濃度で、ヒト大腸正常上皮細胞FHCが80%生存した。FACS解析にて1121/1112はsubG1 フラクションを増加させ、ウェスタンブロット解析にてBcl-2およびcaspase9の発現を用量依存性に減少させた。両化合物はin silico解析にてSTAT3に結合することが予測された(DS 2017R2)。STAT3とのdocking scoreは1121>1112>PPI>STAT3阻害剤であった。化合物1112 はSW837細胞株に対しSTAT3の転写活性を用量依存性に抑制し、pSTAT3の発現を減少させた。以上の結果から、化合物1121/1112はSTAT3を介してヒト大腸がん細胞株に対してのcytotoxicityを発揮し、ひとつの機序としてアポトーシスの誘導が考えられる。また、N原子の求核性は腫瘍選択性に関与する。