日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S18-1
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シンポジウム 18
有機スズ化合物による雌性性周期かく乱作用とその分子メカニズム
*中西 剛
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抄録

 近年、月経困難症や子宮内膜症などの女性生殖器疾患の増加により、不妊症が社会問題化しているが、このような原因として環境中に存在する化学物質の関与が疑われている。これまでにダイオキシン類やフタル酸エステル類等と成人の女性生殖器疾患との因果関係について数多くの報告がなされているが、その影響については賛否両論であり明確な結論を見いだせていないのが現状である。これは、化学物質の雌性生殖毒性における毒性発現機構の理解が不十分であることに原因があると考えられる。一方で我々は、これまでに一部の雌性巻貝類に雄性生殖器を発生させるなど内分泌かく乱作用が問題となったトリブチルスズ(TBT)やトリフェニルスズ(TPT)が、核内受容体であるretinoid X receptor(RXR)とperoxisome proliferator-activated receptor(PPAR)γを介して、様々な生物種に対して生体影響を与える可能性を示してきた。またTBTおよびTPTは、げっ歯類に対しても発生毒性や精子細胞形成の阻害など生殖毒性を有することが報告されていたが、最近TBTについては、繁殖期の雌性ラットに対して性周期異常や繊維化を伴った子宮の炎症を誘発し、妊娠率の低下を招くことが報告された。この原因としては、視床下部-下垂体-性腺軸(HPG axis)に対する影響が考えられているが、我々はこの影響にもRXRまたはPPARγが関わっているのではないかという作業仮説を立て、TBTと同様にRXRおよびPPARγに対してアゴニスト作用を示すTPTについて28日間の反復投与試験を行った。その結果、TPTも発情間期の延長を伴う性周期の異常を誘導することが確認された。発情間期の誘導にはエストロゲンレベルの上昇が関与しているが、我々はTBTおよびTPTがエストロゲン受容体(ER)に対し直接的に作用するのではなく、RXRまたはPPARγを介してエストロゲンシグナルを修飾している可能性を見いだした。本講演では、有機スズ化合物の雌性生殖毒性におけるRXRまたはPPARγの関与について、我々の最近の知見を紹介すると共に、このような生殖毒性におけるこれらの核内受容体の関与について議論をしたい。

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