日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S26-4
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シンポジウム 26
胎生期バルプロ酸曝露によるけいれん感受性増大のメカニズムとその改善法
*中島 欽一
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抄録

 神経幹細胞及びそれから分化・産生されるニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトは、脳神経系を形成する主要な細胞種である。また、エピジェネティクス機構が、これら細胞の分化や機能発現には重要である。我々は以前に、抗てんかん薬かつヒストンアセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるバルプロ酸が、神経幹細胞からニューロンへの分化を促進できることを示した。マウス胎仔が、このバルプロ酸に曝露されると、神経幹細胞からニューロンへの分化が過度に促進された結果、成体海馬における神経幹細胞数とニューロン新生の減少を見出した。その結果、バルプロ酸曝露マウスでは、成長後に学習記憶障害が観察され、ヒトにおいてバルプロ酸胎生期曝露産児にIQ低下傾向が見られることなどとも一致する。さらに、バルプロ酸胎生期曝露産児において、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害の発症リスクが増加すること、及び、これらの疾患はてんかんを高率に併発することが報告されている。

 そこで今回、我々は、バルプロ酸胎生期曝露マウス産仔の成長を待ち、成体期においてけいれん誘発性薬剤として汎用されるカイニン酸への感受性を調べた。その結果、バルプロ酸胎生期曝露マウスでは非曝露マウスと比較してけいれん症状が重篤化することを見出した。また、バルプロ酸胎生期曝露マウスの成体海馬では、神経幹細胞において細胞移動に関連する遺伝子群の発現変化を認め、その結果として新生ニューロンの移動に異常が認められた。さらに、このニューロン移動の異常により、てんかん原生との関連が報告されている異所性ニューロン数の増加が認められた。一方で、胎生期VPA曝露による影響(異所性ニューロン新生やけいれん感受性増加、遺伝子発現異常)のほとんどは、自発的運動で改善されることが明らかとなった。本講演ではこれら一連のトピックスについて紹介するとともに議論したい。

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