日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S7-5
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シンポジウム 7
我が国における農薬の生態リスク評価最前線
*五箇 公一
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抄録

 近年、欧米を中心にネオニコチノイド系農薬によるハナバチ類など野生生物に対する悪影響が次々と報告され、我が国でも、本系統剤の生態リスク管理のあり方が政策課題として議論されてきた。特に我が国では、水田を生息地とするアキアカネ等のトンボ類が近年急速にその姿を消している原因がネオニコチノイド系農薬やフィプロニルによるものではないかと懸念されている。

 これら新型殺虫剤も、農薬取締法による生態リスク評価を受けて使用が認可されているが、その評価はOECD(経済協力開発機構)において策定された世界統一基準の試験法に基づいて行われており、原則、生態リスクは、藻類、ミジンコ類、魚類の3種類の水生生物に対する急性毒性値によってのみ評価されてきた。

 国立環境研究所では、水田メソコズム試験を行うことで、実際の水田環境では、これらの浸透移行性殺虫剤は法律上の基準値以下の濃度でも生物群集に大きなダメージを与え、水田生態系最上位捕食者のトンボ生息数に大きく影響することを明らかにしている。さらに日本各地の野外水田環境における農薬濃度とトンボ発生数の関係についても調査を行ない、地域から全国スケールに至る農薬影響評価を検討している。

 一方、ハチ類に対する影響評価として、国立環境研究所では、野生のニホンミツバチやマルハナバチを対象種として調査を進めており、花粉・花蜜を介した影響評価試験を行うとともに、野外環境下での花粉・花蜜の残留農薬濃度を計測し、暴露リスクの評価を進めている。

 現在、環境省ではこれら一連の研究成果をうけて、生態リスク評価の高度化を進めており、すでにミジンコに加えてユスリカ幼虫を節足動物の毒性試験生物に加えるとともに、ミツバチの毒性試験ガイドラインの整備を進めている。本講演では、我が国における農薬の生態リスク評価に関する最新情報を紹介するとともに今後の課題について議論する。

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