主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
フローサイトメトリーに代表される単一細胞分析は、細胞個々の生化学的な情報だけでなく、high-throughputに細胞を導入し、大規模データを得ることで細胞集団に関する情報も同時に取得可能となる。近年、高感度の元素分析計であるICP質量分析計(ICP-MS)においても、単一細胞に含まれる極微量の元素を検出する技術(single cell (SC)-ICP-MS)が確立されつつある。本研究では、ラット赤血球、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、緑藻(Chlamydomonas reinhardtii)、及び慢性骨髄性白血病由来細胞(K562)という菌類、植物、動物という幅広い生物種の一細胞を対象に、SC-ICP-MS(Agilent 8900 ICP-QQQ, Agilent Technologies)による内在性の元素の検出、定量を試みた。SC-ICP-MSによる分析でラット赤血球、出芽酵母、緑藻からマグネシウム 、亜鉛、リン、硫黄、鉄に由来する信号が検出された。信号強度から個々の細胞に含まれる元素の含有量を算出したところ、その平均値は、細胞集団の湿式灰化分析から推定される値と非常によく一致した。一方、K562細胞の分析では、P、S、Zn、Mgの信号が検出されたものの、細胞の検出効率が他の細胞と比べて極端に低下した。また、元素含有量も湿式灰化分析から求めた値との間に差異が見られた。今後、high-throughputかつ定量的な単一細胞元素分析を行う上で、直径約20μmの培養細胞においては、輸送効率やイオン化の改善が必要となると考えられる。