主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
アクリルアミドはシトクロムP450 2E1によりグリシドアミド (GA) に代謝され、ゲノムDNAと反応して主に2′-deoxyguanosine (dG) のN7位付加体であるGA7dGを生じる。GA7dGはマウスへのアクリルアミド反復投与によりゲノムDNA中に蓄積するものの、化学的に不安定なためin vitroでの解析は行われておらず、アクリルアミドの遺伝毒性にどのように寄与するかは明らかとなっていない。本研究ではアクリルアミドの遺伝毒性・変異原性におけるDNA付加体の寄与を明らかにするため、2′-deoxy-2′-fluoroarabinoguanosine (FdG) を用いてGA7dGの安定化アナログであるGA7FdGを作成した。この修飾塩基を片側の鎖に組み込んだシャトルベクターを色素性乾皮症 (C群) 患者皮膚由来線維芽細胞株 (XP4PASV) にトランスフェクションして細胞内で複製させ、鋳型鎖上のGA7FdGによるDNA複製効率への影響および突然変異スペクトラムを調べた。その結果、GA7FdGを持つDNA鎖の複製効率はFdGを同位置に持つ対照ベクターと比べて約半分程度であり、GA7FdG鎖特異的に塩基置換変異および1塩基欠失変異が見られた。そこで鋳型鎖上のGA7FdGがDNAポリメラーゼ活性を直接阻害するか検討したところ、GA7FdGはヒトの複製型DNAポリメラーゼであるPolε (イプシロン) のみならず、主要な損傷乗り越え型DNAポリメラーゼであるPolη (イータ)、Polι (イオタ)、Polκ (カッパ)、Polζ (ゼータ)によるDNA合成をいずれも強く阻害した。これらの結果から、ヒト細胞においてゲノムDNA中に残存したGA7dGはDNA複製を阻害するとともに点突然変異を誘発し、アクリルアミド誘発遺伝毒性に寄与することが示唆された。