日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-205
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有機ヒ素化合物ジフェニルアルシン酸によるアストロサイトの異常活性化とチオール基含有キレート剤
*根岸 隆之佐々木 翔斗若杉 周弥髙木 梓弓柴田 朋香都築 孝允湯川 和典
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抄録

ジフェニルアルシン酸(DPAA)は、茨城県神栖市で発生した井戸水ヒ素汚染事故の原因物質であり、井戸水を使用していた住民に小脳症状を主とする神経症状がみられた。我々はこれまでに、DPAAがラット小脳由来培養アストロサイト(NRA)において、濃度・時間依存的に細胞増殖亢進と続く細胞死、低濃度長時間曝露(10 μM、96時間)により酸化ストレス応答因子(Nrf2、HO-1、およびHsp70)の発現誘導、MAPキナーゼ(ERK1/2、p38MAPK、SAPK/JNK)のリン酸化亢進、および転写因子(CREB、c-Jun、およびc-Fos)のリン酸化亢進または発現誘導などの細胞内異常活性化を引き起こすことを明らかにしてきた。本研究では、神経症状発症の予防と治療に資する薬物を探索するため、重金属中毒時にキレート剤として用いられるジメルカプロール(BAL)、D-ペニシラミン(DPEN)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、および2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)のNRAにおけるDPAAによる細胞内異常活性化に対する効果を検討した。NRAは、Wistarラット小脳から調整し無血清培養液にて10μM DPAAおよびキレート剤に96時間ばく露し、Western blottingにより上述異常活性化マーカータンパク質(Nrf2、HO-1、Hsp70、ERK1/2、p38MAPK、SAPK/JNK、CREB、c-Jun、c-Fos)の発現量またはそのリン酸化を評価した。DPAAによるNRAの異常活性化に対し、BALおよびDMPSは抑制効果が見られなかったが、DPENとDMSAは顕著な抑制効果が見られ、DMSAが最も優れていた。以上の結果より、DMSAとDPENはDPAAによる異常活性化を抑制することが明らかとなり、DPAA中毒に対する治療薬候補となり得る。

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