主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
【目的】我々は、海洋汚染物質の有機スズ類が、核内受容体PPARγのアゴニストとして作用し、哺乳類に生体影響を与えることを明らかにしてきた。有機スズ類は未だ海洋底質中に残留していることから、PPARを介した底生生物に対する生体影響が懸念されるが、我々は下等底生魚類Leucoraja erinaceaにも有機スズ応答性のPPAR (LePPAR)が存在することを見出した。本研究では、有機スズ類に対するLeucoraja erinaceaの詳細なリスク評価を目的に、LePPARのリガンド応答性等の性状解析をヒトPPARγとの比較検討により行った。
【方法】同定したLePPAR配列を基に発現プラスミドを作成した。ヒトPPARγリガンドであるrosiglitazone (Rosi)および有機スズ類の転写活性化能の評価はレポーターアッセイにより検討を行った。また、組換えタンパクを用いてRosiおよび有機スズ類のLePPARに対する親和性を検討した。
【結果および考察】LePPARでは、ヒトPPARγにおいて有機スズ類の結合に重要とされているアミノ酸部位が、ヒト同様Cであったが、トリフェニルスズ (TPT)の結合に重要とされているアミノ酸FがIとなっていた。それにもかかわらず、[14C]TPTを用いた結合実験を行ったところ、LePPARはTPTに対してヒトPPARγと同等の親和性を示した。またTPTの各受容体に対する転写活性能をレポーターアッセイにより検討したところ、LePPARは結合実験の結果を反映して、ヒトPPARγと同等の応答性を示した。その一方で、LePPARはRosiによって活性化されなかった。続いて、ヒトPPARγにおいてTPT結合に重要とされているアミノ酸FをLePPARと同様にIに変換したところ、ヒトPPARγのTPT応答性は完全に消失した。以上より有機スズ類は、ヒトと同様にLeucoraja erinaceaに対してもPPARを介して生体影響を与えるが、その結合様式はLePPARとヒトPPARγでは少なからず異なる可能性が示された。