主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
産官学共同研究のトキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)で実施された肝毒性物質を投与したラットの血漿サンプルのメタボロームデータを解析し、肝細胞壊死の部位の違いにより、一部の代謝物に変化が認められたので報告する。5種類の肝毒性物質(N-ニトロソジエチルアミン[DEN]、エチオナミド[ETH]、チオアセタミド[TAA]、メタピリレン[MP]、アセトアミノフェン[APAP])をラットに7もしくは14日間反復投与し、投与後24時間の血漿サンプルをCE-TOFMSを用いて代謝物を網羅的に測定し、223種類の代謝物を同定・定量した。血漿中のグルタミン(Gln)濃度の増加とグルタミン酸(Glu)濃度の減少は、MP投与ラットのみで同時に観察された。また、血漿中のGln/Glu比も同じグループで増加した。一方、血漿中の尿素濃度の増加は、すべての肝毒性物質を投与したラットに観察された(DENもしくはTAAの低用量投与群を除く)。TGP2で保管された病理組織データでは、肝細胞壊死はMP投与ラットでは門脈周囲に観察され、同変化は他の肝毒性物質を投与したラットでは中心静脈周囲に観察されている。肝臓でのアンモニアの解毒プロセスにおいて、アンモニアは門脈周囲の肝細胞で尿素に変換され、中心静脈周囲の肝細胞ではアンモニアの解毒としてグルタミン酸はグルタミンに変換される。総合すると、アンモニア解毒パターンは、MP投与ラットでは尿素合成からグルタミン合成へ変化し、他のグループでは逆の変化を示している。興味深いことに、MP投与ラットでは両方の変化が同時に観察された。従って、血漿中のGln/Glu比の増加は、肝毒性の局在(門脈周囲の肝細胞壊死)を予測する有用なバイオマーカーである。