主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
ネオニコチノイドは、高い浸透性と昆虫駆除効率を有する新しいクラスの殺虫剤で、ニコチンの化学構造を模倣し、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合して殺虫効果をもたらす。昆虫と哺乳類ではnAChRの感受性が異なるため、ネオニコチノイドは安全な殺虫剤と考えられてきたが、近年その安全性に疑問を呈する報告がなされている。本研究では、代表的なネオニコチノイドの一種であるアセタミプリド(ACE)を用い、これをラット胎児に曝露して、小脳神経細胞にどのような影響が見られるか観察した。
20mg/kg、40mg/kg および 60mg/kg のACE水溶液を Wistarラット妊娠15日目(G15)に経口投与した。生まれた雄の仔を出生後14日(P14)に灌流固定し、小脳スライスを抗 Calbindin-D-28k/Iba1で抗体染色して共焦点顕微鏡で観察した。観察後試料をHE染色し、実体顕微鏡で小脳スライス全像を観察した。
ACE 20mg/kg投与動物とコントロールラットではPCの乱れは観察されなかったが、40mg/kg投与動物のPCの配列は通常のプルキンエ層の配列から大きく乱れ、60mg/kg投与動物ではわずかに乱れることが観察された。また、小脳虫部VとVI層の小脳褶曲率は、40mg/kg投与動物および 60mg/kg投与動物ではコントロールよりも有意に高く、20mg/kg投与動物はコントロールとほぼ同じだった。この褶曲の形成率は、バルプロ酸投与動物と同程度だった。バルプロ酸はヒストンアセチル化酵素阻害剤として知られ、また強力な自閉症誘発作用が知られている。ACE投与においても同様のエピジェネティクな変化が生じることが考えられる。
これらの結果から、胎生期の高濃度ACE 曝露が小脳の層形成とプルキンエ細胞の分化に影響を与えることが示唆された。一方、60mg/kg 投与動物において 40mg/kg 投与動物よりも大きな影響を示さなかった点は、より強いミクログリア活性化が生じて神経死を誘発した可能性が考えられる。