主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
近年新たに提唱されたプログラム細胞死であるパータナトスは、ストレス応答分子PARP-1(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ-1)の過剰活性化によって引き起こされる非典型的な細胞死の一つである。パータナトスは、神経変性疾患との関連が強く示唆されているものの、その制御機構については不明な点が多い。その一因として、これまで実験的にパータナトスを効率良く惹起するためのパータナトス誘導剤が存在しなかったことが挙げられる。そこで我々は、パータナトス誘導機構解明を目的としてパータナトス誘導剤の探索を行った。
これまで我々は、一部の薬剤の細胞毒性がパータナトスを介することを明らかにしていたことから、副作用として細胞毒性を示す薬剤をパータナトス誘導剤の候補薬剤とし、パータナトスに高い感受性を示すことが判明しているヒト線維肉腫細胞株HT1080に対する候補薬剤のパータナトス誘導能を評価した。その結果、複数の強力なパータナトス誘導剤を同定した。興味深いことに、候補薬剤の特性を詳細に検討すると、特定の条件下や細胞状態においてのみパータナトスを誘導する薬剤が存在することを見出した。中でも、感染症治療薬として使用されている抗菌薬Xは、正常細胞に対するパータナトス誘導能は低いものの、癌抑制因子として知られるSTK11 (serine/threonine kinase 11)/LKB1 (liver kinase B1) の機能欠損細胞に対して、著しくパータナトスを誘導することが判明した。以上の結果は、抗菌薬Xの投与によって、正常細胞には毒性を与えることなく、STK11の機能が欠損した癌細胞だけを選択的に排除できることを示唆している。我々は現在、STK11の機能欠損を原因とする癌組織をパータナトス誘導によって特異的に排除するという、全く新しい癌治療法の構築を目指した基礎研究を進めている。