日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: PD-2
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特別パネルディスカッション
環境化合物修飾によるエピゲノム調節機構
*上原 孝
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抄録

私たちが生活する身の回りには膨大な環境性化合物が存在し,日常的にそれらに晒されながら暮らしている.すなわち,生涯に渡り,水・空気・食物から多種多様の化合物を摂取し,それらと上手く調和適応しているとも言える.このような化学物質曝露の総体としてエクスポソームという概念が提唱され,それらは一般的外的要因(教育,精神的ストレス,気候など),内的要因(内因性ホルモン,体型,腸内細菌叢など),特殊外的要因(化学物質,食事,汚染物質,生活習慣因子など)に分類されている.これらの慢性的な曝露はヒトの健康維持ばかりでなく,時には病態形成に関わることが示唆されている.しかしながら,膨大な化合物に対する量的,質的あるいは時間的影響を明らかにするのは困難であり,現時点において完全なエクスポソームを解く術は無く,全世界で模索している段階である.

一方,曝露科学中心で実施されているエクスポソームへのアプローチとは異なり,個々の外来性環境化学物質に焦点を当て,タンパク質やDNAなどの生体高分子への作用については断片的ながら解析が進んできている.このような個別化された研究成果は,次のステップである複合曝露研究を展開する上で重要であり,データの蓄積を介することで,完全エクスポソーム解明への重要な橋渡しをするものと考えている.そこで,環境化学物質による生体修飾に特化したエクスポソーム(アダクトエクスポソーム)を構築し,新たなモデル化を現在目指している.

その中でも,私たちのグループはタンパク質Cys残基を修飾する,環境性親電子性化合物の影響について解析している.最近の研究から,後天的遺伝子発現制御(エピジェネティクス)システムがある種の環境因子を介して調節されている可能性を見出した.このことは,環境化学物質曝露によってエピジェネティクスに影響が及び,遺伝子発現に何らかの変化が来され,その量に応答した生体機能調和(生存・健康)や破綻(病態・死)が惹起される可能性を示唆している.これらの知見を元にして,議論したいと考えている.

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