主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
タンパク質の機能はゲノムDNA中にコードされているアミノ酸配列により決まるが、多くのタンパク質は翻訳後に修飾されることによってその機能が調節されている。様々な種類のアミノ酸が多様な翻訳後修飾を受けるが、その中でも反応性の高いアミノ基を側鎖にもつリジン残基はアセチル化、メチル化などの多彩な修飾を受けることが知られている。リジン残基上で起こる数ある翻訳後修飾の中でも、我々はアセチル化に注目してこれまで研究を行ってきた。
リジンアセチル化されるタンパク質といえば、ヒストンが最も有名である。ヒストンのアセチル化は、エピジェネティックな遺伝子発現を制御し、細胞の運命を決定する。一方、近年の質量分析法の技術革新により、ヒトの細胞内には3,000種類以上のアセチル化タンパク質が存在することが示唆されている。さらに、アセチル化に加えてリジン残基は様々なアシル化修飾を受けることが最近明らかになり、生体内で起こるリジンアシル化修飾の全貌は今後の大きな課題である。
ところで、これらリジン残基のアシル化修飾は、脂肪酸などの生体内のカルボン酸がリジンのεアミノ基に付加されることによって引き起こるが、リジン残基に付加されるカルボン酸は、生体内に存在する内因性カルボン酸のみであろうか?我々は、食品とともに取り込まれる様々な化合物に日々暴露されており、その中には、カルボン酸も含まれる。実際、食品添加物の中には100種類以上のカルボン酸が存在する。これら食品成分として日々摂取しているカルボン酸の中には、生体内の化学反応を介してヒストンなどのタンパク質のリジン残基に付加されるものがあるのではないか?本発表では、我々がこれまで行ってきたリジンアシル化修飾研究について紹介するとともに、食品成分カルボン酸暴露による生体に対する影響を、リジンアダクトエクスポソームの観点から議論したい。