日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S19-5
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シンポジウム19
メチル水銀毒性発現に関わる新規シグナル伝達系
*黄 基旭
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抄録

メチル水銀は重篤な中枢神経障害を引き起こす代表的な環境汚染物質の一種であるが、それに関わる分子機構はほとんど解明されていない。我々はこれまでに、メチル水銀を投与したマウスの脳内においてミクログリアから炎症性サイトカインの一種であるオンコスタチンM(OSM)が発現誘導されることを見出した。OSMはIL-6分子種の一つで、細胞外に放出された後に細胞膜上に存在する受容体OSMRまたはLIFRと結合して細胞内へシグナルを伝達することが知られている。メチル水銀処理によって細胞外のOSMレベルも増加し、また、リコンビナントOSMの培地中への添加によってOSM発現抑制細胞のメチル水銀感受性が上昇した。しかし、OSMRまたはLIFRの発現を同時に抑制させても細胞のメチル水銀感受性はほとんど変動しなかった。これらのことから、OSMが示すメチル水銀毒性増強作用にOSMRおよびLIFR以外の受容体が関与している可能性を示唆している。そこで、OSMが結合することによってメチル水銀毒性増強に関わる受容体を検索したところ、TNF受容体3(TNFR3)が同定された。さらに、TNFR3に対する中和抗体をマウスの脳室内に直接投与することでメチル水銀による神経細胞死が抑制されることも見出している。また、メチル水銀がOSMの105番目システイン残基をブロックすることによってTNFR3との結合を上昇させることが試験管内実験により示唆されている。以上のことから、OSM/TNFR3を介した新規シグナル伝達系がメチル水銀による中枢神経傷害に深く関与していることが強く示唆されており、本講演ではその詳細について紹介する。

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