主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
環境中には多種多様な化学物質が存在する。これらの物質の複合曝露の影響を定量的に評価することは、環境毒性研究の最重要課題の一つである。gpt deltaマウスなどのtransgenic rodent in vivo assayは、標的遺伝子上に誘発された突然変異の解析から、各臓器での突然変異頻度や、変異が高頻度に誘発される塩基配列(mutation hotspot)が同定できるなど、複合曝露の影響評価に適した特性をもつ。我々は1990年代に、都市大気への曝露により、ラット肺にDNA付加体が生成されることを見出した。このDNA付加体が突然変異に固定され、さらに発がんに繋がるかを明らかにするために、gpt deltaマウスに都市大気浮遊粉塵(PM)に含まれる成分を曝露し、標的遺伝子gpt上に誘発された突然変異を解析した。典型的なPM中の変異原物質であるベンゾ[a]ピレン(BaP)や1,6-ジニトロピレン(DNP)を肺内に投与して誘発される突然変異は、BaPではG>T置換が主要であるのに対し、DNPではG>A置換が主要であった。また、mutation hotspotは両者で異なっていた。そこで、PMの主な排出源であるディーゼル排気(DE)を吸入曝露したところ、肺の突然変異頻度が曝露期間に依存して上昇した。誘発された塩基置換は主にG>A置換であり、mutation hotspotはDNPと類似していた。DNPやその関連化合物のDE曝露による突然変異誘発への関与が示唆された。さらに、実際の都市大気から採取したPM抽出物を肺内に投与して突然変異を解析したところ、DE曝露により観察された突然変異のほか、gpt上のTGAA配列上でG>T置換が発生していた。別の実験により、このTGAA配列での塩基置換は、酸化ストレス誘導剤・臭素酸カリウムを経口投与したgpt deltaマウス小腸でも誘発され、さらに臭素酸カリウム投与で誘導された小腸がんのAPC遺伝子上での発生が確認されたものである。PM成分による突然変異誘発に、酸化ストレスの惹起が関与していると示唆された。