日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S7-5
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シンポジウム7
皮膚表皮角質層の進化機構
*松井 毅
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抄録

 約3.6億年前に最初の陸上脊椎動物である両生類が陸上に進出した。その際に、気相-液相間バリアーとして「角質層」を獲得し、皮膚表皮が形成された。その後、硬い角質層を持った爬虫類が繁栄し、約2億年前には「柔らかく保湿された角質層」を獲得した哺乳類が誕生した。これまでの研究で、哺乳類特異的に獲得された皮膚表皮特異的に発現するレトロウイルス様アスパラギン酸プロテアーゼSASPaseは、角質層の下層において、アトピー性皮膚炎発症に関わる蛋白質プロフィラグリンの分解に関わり、角質層の保湿を担っていることを明らかにした。このプロテアーゼ活性の至適pHは弱酸性である。しかし、これまで角質層の表面は弱酸性であることは示されていたが、どのような場所からどのように酸性化していくかは不明であった。そこで、角質層下層部分のpHを生きたマウスにおいて非侵襲的に観察するために、角質層pHイメージングマウスを作製した。その結果、角質層のpHは、下層の弱酸性領域、中層の酸性領域、上層の中性領域という三つのゾーンからなることが明らかとなった。この角層のpH分布は、耳や尾、足裏など様々な皮膚において、共通に存在していた。このことから、角質化過程において、角質層の下層に存在する顆粒層が細胞死と共に細胞内を酸性化し、SASPaseを活性化することで、プロフィラグリンを分解すると考えられた。その結果、角質細胞内のケラチン繊維の構造変化が起き、保湿された角質層が形成されると予想される。このことは、哺乳類皮膚角質層の保湿には、レトロトランスポゾンに由来するプロテアーゼが、皮膚におきえ外適応(イグサプテーション)(本来の機能以外の役割を分子が持つようになること)するためには、細胞内の環境も重要な要素であったと考えられる。

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