主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
薬物等の低分子化合物は複数の標的に結合しうる。そのため開発者が意図せぬ作用を示すことも多く, それらが有害である場合には忌避されるべき副次作用となる。一方, 意図せぬ作用が必ずしも有害であるとは限らない。近年盛んなドラッグリポジショニングでは, 用途の拡充に限らず, 薬物の新たな「良い」側面を活用するケースも存在する。すなわち複合的な化合物の作用を理解することが重要である。
近年の技術発展に伴い, データ駆動型アプローチによる低分子化合物の理解が発達している。分子生物学分野で本アプローチを牽引するオミクス解析の特徴は, その網羅性により, 試料が持つ生物学的情報をノンバイアスに数値情報へと変換可能な点である。すなわち, 試料を記述するデータへの変換自体がノンバイアスに実施可能であり, 既存知見を必要としないため, 低分子化合物の未知な側面を捉えるのに適している。
これまでにオミクスデータの解析手法は数多く開発されてきたものの, 複合的な低分子化合物の作用を分離して理解しようとするものは存在しなかった。当研究室で開発した直交線形分離解析法(OLSA)は, そのようなオミクスデータ解析手法であり, 化合物が持つ作用の可逆性の仮定に基づき, 因子分析を改変したシンプルな解析手法である。多くの機械学習を用いた解析とは異なり, アウトプットがより理解しやすい形であるため, 分子生物学的な知見を用いて解釈しやすい点が特長である。すなわち, ①試料のデータへの変換 (オミクス解析), 引き続く②特徴量エンジニアリング (OLSA) まではノンバイアスに実施することで化合物の未知な側面を含むデータ構造を抽出し, それら③データ構造の解釈には分子生物学的知見を最大限活用するアプローチである。
本発表では, 化合物作用分離解析と称している一連のフレームワークと, その適用について紹介する。