主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
数理モデルを用いた薬物体内動態の定量的解析は医薬品開発の一環としてごく普通に行われるようになってきた。さらに近年、ヒト血流および臓器体積等の生理・解剖学的パラメータを直接用いる生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いた薬物体内動態解析が急速な進歩をみせている。PBPKモデルを構成する個々のパラメータは、生理学的・生化学的に対応付けられた意味を必ず持っており、これらのパラメータ値は、遺伝子多型、民族、性別、単純な個体差等に起因してヒト個体間で一定のばらつきがあることは自明である。時にそのばらつきの集積は、一定の患者集団の中でごく少数の患者のみにみられる予期せぬ薬物の血中濃度プロファイルや薬効・副作用発現につながり得る。そのような事象は、少人数を対象に行われる臨床試験初期においては検出が困難である。一方でPBPKモデルを構成するパラメータの個人間変動、すなわちばらつきの情報は健常人をはじめ蓄積されつつある。これら個人間変動の情報をPBPKモデルに組み込み、コンピュータ上で仮想患者を発生させシミュレーションすることにより、特定の患者集団における薬物の体内動態・薬効・副作用の発現頻度を定量的に予測できるVirtual Clinical Study (VCS)の実現が期待されている。本発表では、VCSによるアプローチが、実際のヒト臨床試験から得られる薬物動態・薬効・副作用を示すパラメータの平均値およびばらつきを再現するin silico予測系としての解析事例をいくつか紹介する。