これまでに細胞培養実験から石綿曝露による免疫機能低下の特徴を見出し、幾つかの特徴が中皮腫または石綿曝露者で確認されることを報告してきた。しかし、未だその抑制の分子機序は不明である。最近、ヒトCD8+T細胞株EBT-8の長期白石綿曝露が細胞内perforin量と刺激後のIFN-γ産生能低下を導くことを捉えた。そこで、30 μg/ml 濃度の2種の白石綿クリソタイル(CA, JAWE)、青石綿クロシドライト(CR)、或いは二酸化チタン(TiO2)曝露下IL-2添加培地でEBT-8を長期間培養し5亜株を作成した。培養39日目以降にIFN-γその他のmRNAレベルをqPCRで測定すると、石綿曝露時には共通してIFN-γ転写産物量の曝露日数依存的漸減を示し、TNF-α他の遺伝子では見られず、石綿曝露による特定の遺伝子群への発現制御を示唆した。そこで、これらの細胞5亜株各3例のNGS解析により全転写産物量の変化を分析した。NGS解析より得られたコンセサス転写物について29,638転写物の発現量を比較できた。その中で、CA, JAWE, CRに共通し4倍以上の変動を示す転写物は5つ有り、IFN-γを含み既知遺伝子が3つ、未知転写物が2つであった。また2倍以上の差を示すものは78あった。2既知遺伝子発現レベルと2転写物レベルは何れもIFN-γと有意に極めて良好に相関した(r>0.9)。他方、CR曝露亜株で転写産物量変動を示す遺伝子にはCA曝露亜株の転写産物量と負に相関するものが多数存在した。以上の結果は石綿曝露による免疫抑制作用に関わる共通の遺伝子群の存在を示唆する一方、白石綿と青石綿曝露での異なる免疫機能影響を示唆する。