発達期の環境化学物質等への曝露が成熟後の認知・行動に及ぼす影響について、モデル動物を用いた数多くの研究がある。しかし、従来の行動試験系では、発達時系列上において、どの時点で、どのような認知・行動影響が現れるかを検出することは困難であった。本研究では、全自動認知行動解析システムであるIntelliCageを改良し、幼若期から成熟期に至るまでの、マウス認知行動試験法を確立し、毒性試験への適用可能性を検討することを目的とした。幼若マウスに適合する、IntelliCageオペラント装置(コーナー)の3次元モデルを作成し、マウスの行動反応を阻害しないよう、余剰空間を埋める補助パーツを作製した。改良IntelliCageを用い、C57Bl/6NCrl系統(計24匹)を用いて、生後23日目より認知機能試験として、報酬を得るための行動系列の獲得課題及びその反復逆転課題を行った(実験1)。次に、妊娠7日目および14日目に体重1kgあたり0(対照群)もしくは5 mg(曝露群)の塩化メチル水銀を投与した。この妊娠マウスから産まれた仔マウスを用いて同試験を実施した(実験2)。実験1では、離乳直後の幼若マウスは、成熟マウスと同様に、報酬を得るための行動系列を数日以内に習得し、またその後7週齢までにその反復的逆転課題を30回以上完遂した。実験2では、曝露群において、探索活動レベルが有意な低下し、報酬に対する固執行動が有意に上昇した。以上、本研究の成果として、マウスにおいて離乳期以降の発達時系列を網羅した認知行動解析を全自動長期にわたり行うことが可能となり、その毒性試験としての有用性が確認できた。※本研究は、JSPS科研費 JP18H03036の助成を受けた。