日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-5
会議情報

口演
薬害スモンを引き起こしたクリオキノール(キノホルム)によるノルアドレナリン合成阻害
*勝山 真人
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 かつて我が国で整腸剤として多用されたクリオキノール(キノホルム)は亜急性脊髄視束神経症(スモン)という重篤な薬害を引き起こしたが、その発症の分子機構は未だ明らかでない。近年海外においてクリオキノールの類縁化合物が開発され、アルツハイマー病や多系統萎縮症といった神経変性疾患への応用が期待されている。これらの化合物による新たな薬害を阻止するためにも、クリオキノールの神経毒性の分子基盤の解明は必須である。

 我々はヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞においてクリオキノールにより発現が変動する遺伝子を網羅的に解析し、クリオキノールがDNA二本鎖切断によるATMとp53の活性化を引き起こすこと、痛み反応に関与する神経ペプチドの前駆体VGFや腸炎・視神経炎・神経因性疼痛に関与するインターロイキン-8の発現誘導を引き起こすことを見出し報告してきた。

 クリオキノールはかつて遺伝性の亜鉛吸収障害である腸性肢端皮膚炎の治療薬として使用されていたが、これは亜鉛イオノフォアとしての作用を利用していたものと考えられる。また亜鉛の過剰と銅欠乏による脊髄神経障害とスモンの臨床症状に共通点があることから、「スモンは亜鉛の過剰・銅欠乏による神経障害ではないか」という仮説を立て今回の研究を行った。SH-SY5Y細胞において、クリオキノール刺激1時間で細胞内亜鉛濃度は上昇したが、銅濃度は刺激24時間後に上昇した。クリオキノールは銅シャペロンであるATOX1のチオール基の酸化を引き起こし、銅依存性でノルアドレナリン(NA)合成に関わるドパミンβ水酸化酵素(DBH)の分泌を抑制した。細胞内NA濃度はクリオキノールにより低下した。ATOX1ノックアウト細胞ではDBHの分泌が低下していた。

 クリオキノールによるNAの合成阻害は、副交感神経系の過剰亢進や下行性疼痛抑制系の機能障害につながる可能性があり、初期の猛烈な腹痛や、感覚異常といったスモンの症状への関与が示唆された。

著者関連情報
© 2021 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top