アトピー性皮膚炎や気管支喘息等のアレルギー患者数は増加の一途をたどっているが,その原因については不明点が多い。近年の疫学研究では,血中無機ヒ素濃度と皮膚炎や喘息の発症リスクに因果関係がある事が報告されている。本研究では無機ヒ素曝露とアレルギー疾患増悪の関連に着目し,アトピー性皮膚炎モデルマウスおよび喘息モデルマウスを用いた検討を実施した。アトピー性皮膚炎モデルマウスは雌性NC/NgaマウスにTh2型ハプテンである2,4-トルエンジイソシアネートを複数回経皮投与する事で作製した。喘息モデルマウスは,雌性BALB/cマウスにダニ抗原抽出液を複数回点鼻投与する事により作製した。両モデル共に実験期間中は無機ヒ素(10 ppm)を毎日飲水投与し,皮膚炎モデルでは経表皮水分蒸散量およびアトピー症状スコアを毎週モニタリングした。両モデルとも最終アレルゲン惹起翌日に動物を安楽殺し,近傍リンパ節,皮膚ないし肺組織,肺胞洗浄液および血清を採材し,その後の解析に用いた。アトピー性皮膚炎モデルでは,無機ヒ素投与群でコントロール群と比較して皮膚炎症状および経表皮水分蒸散量の有意な悪化が認められた。さらにリンパ節中T細胞から産生されるIL-4や皮膚中のIL-5およびIL-33量が無機ヒ素曝露群でコントロールと比較して優位に増加した。喘息モデルでは,喘息症状悪化に関わる肺胞洗浄液中の好酸球数が無機ヒ素曝露群でコントロール群と比較して有意に増加しており,好酸球を遊走するEOTAXINや好酸球活性化に関与するIL-33およびTSLPも肺胞洗浄液および肺組織中で有意に増加していた。T細胞から産生されるTh2型サイトカイン産生量およびIgE産生B細胞数が無機ヒ素曝露により優位に増加しており,それに伴い血清中のIgE量も増加していた。以上の結果から,慢性無機ヒ素曝露はアレルギー疾患病態を増悪させる事が示唆された。