薬物自己投与試験では被験物質を自己投与させる前に,既存の依存性薬物を用いて動物に自己投与行動を形成させる.本研究では,自己投与形成に用いられる訓練薬である中枢神経系興奮薬のコカイン,中枢神経系抑制薬のケタミンによる自己投与形成過程を比較した.
SD系ラットにコカイン0.25 mg/kg/infusion(n=8)及びケタミン3 mg/kg/infusion(n=9)を連続自己投与法で自己投与させた.いずれの薬物もFixed-ratio 1スケジュール(FR1,レバー押し1回に対して1回の薬物注入)から開始し,薬物注入に必要なレバー押し回数を,FR3,5,FR7及びFR10に漸増した.1日の注入回数は最大40回に制限し,1日40回の注入が2日以上連続した場合,FRを増加させた.
その結果,コカインでは8匹中7匹,ケタミンでは9匹中7匹がFR10スケジュールによる自己投与行動を形成した.また,それに要した期間はコカインでは平均24.6日(24~28日),ケタミンでは平均29.9日(17~35日)であった.自己投与行動の形成過程を比較すると,FR1,FR3,5,FR7及びFR10に要した期間はコカインではそれぞれ平均7.6,4.0,4.0,3.0,6.6及び3.0日,ケタミンではそれぞれ平均13.4,3.0,3.0,6.4及び4.0回であった.
以上の結果から,コカインとケタミンの自己投与行動を形成した動物数は同程度であった.また,自己投与行動の形成はコカインのほうがケタミンより早かった.その理由は,FR1スケジュールにおける自己投与行動の獲得期間がコカインのほうがケタミンよりも短かったことであった.