日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-114S
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ポスターセッション
ポリペプチド抗菌薬ポリミキシンBの毒性発現機構の解明
*山田 真佑花平田 祐介野口 拓也松沢 厚
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抄録

 ポリミキシンB (PMB) は、緑膿菌などのグラム陰性桿菌に対して優れた殺菌作用を示すポリペプチド抗菌薬である。一方、PMBは強い細胞毒性を示し、重篤な副作用として腎障害や神経毒性を引き起こすことから、治療薬としての使用は制限されていた。しかし近年、あらゆる抗菌薬に耐性を持つ多剤耐性緑膿菌に対してPMBが効果を示すことが判明し、PMBの臨床的重要性が高まってきた。従って、PMBの副作用克服に向けた毒性発現機構の解明は急務の課題となっている。そこで本研究では、PMBによる毒性発現機構の解明を目的とした。

 PMBがDNA障害を惹起するという報告に基づいて、DNA障害応答分子p53とその関連因子に着目し、PMBによる細胞毒性発現機構を解析した。その結果、p53やp53制御因子であるユビキチン化酵素MKRN1の欠損細胞では、PMB誘導性細胞死が亢進することを新たに見出した。特に、MKRN1の欠損細胞ではPMBに対する感受性が著しく亢進していたことから、MKRN1はPMBの毒性に対して強力な細胞保護機能を有することが示唆された。さらに興味深いことに、MKRN1欠損細胞ではPMBによって炎症性細胞死の一つであるフェロトーシスが誘導されることが判明した。フェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積に伴い引き起こされる非典型的なプログラム細胞死であり、最近様々な疾患との関連が報告されている。以上の結果から、MKRN1はPMBによるフェロトーシスを抑制し、細胞保護作用を発揮していることが示唆された。

 本研究において、MKRN1はPMBの細胞毒性を強力に減弱させることが明らかになった。PMBの毒性に対するMKRN1の細胞保護作用機構の解明は、PMBの副作用克服に向けた重要な分子基盤になると考えられることから、現在、MKRN1による細胞保護作用機構の全容解明を進めている。

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