【目的】トリブチルスズ (TBT) はかつて船底の防汚塗料として用いられた環境化学物質であり、TBTがラットに対して神経毒性を与えることが明らかとなっているが、そのメカニズムは未だ不明な部分が多い。近年、細胞内の分解システムであるオートファジーが様々な神経保護作用を有することが知られ、その異常と神経毒性の関係が調べられている。本研究では、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞においてTBTがオートファジーに与える影響を評価した。
【方法】100-1,000 nM TBTをSH-SY5Yに6、12、24時間曝露した。200 nM Bafilomycin A1 (Baf A1) をTBT曝露終了4時間前から曝露した。細胞生存率はViability/Cytotoxicity Multiplex Assay Kit (Dojindo) を用いて測定した。各タンパク質の発現量、mRNAはそれぞれウエスタンブロッティング、qRT-PCRを用いて評価した。
【結果及び考察】 1,000 nM TBTは曝露後6時間から細胞生存率を減少させた。細胞死を引き起こさない濃度の500 nM TBTはオートファゴソームマーカーである膜結合型LC3 (LC3-II) を蓄積させた。この蓄積はオートファジーを完全に阻害する条件のBaf A1 との併用曝露により増強されなかった。また、オートファジー選択的基質p62/SQSTM1の蓄積が生じたことからTBTがオートファジーを阻害していることが明らかになった。さらに、リソソーム加水分解酵素の一つであるシステインプロテアーゼCathepsin Bの発現減少が500 nM TBTを6時間曝露した時に認められ、この時mRNAの減少が生じないことも明らかにした。以上の結果からTBTが示す神経毒性はリソソームの機能低下を介したオートファジー阻害が関与していることが示唆された。