日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-121S
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ポスターセッション
DNA損傷様式によって異なるトランス脂肪酸の細胞死シグナル促進機構
*山田 侑杜井上 綾蘆田 諒平田 祐介野口 拓也松沢 厚
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抄録

 トランス脂肪酸(TFA)は、トランス型の炭素間二重結合を有する脂肪酸の総称で、生体内では合成されず、加工食品などの摂取を通して体内に取り込まれる。これまで多くの疫学研究から、循環器系疾患、神経変性疾患などとの関連が指摘されてきたが、詳細な発症機序は不明である。我々は最近、TFA関連疾患の発症・進展に深く関わるDNA損傷に着目し、DNA二本鎖切断誘導剤であるドキソルビシンを処置した細胞で、TFAが、DNA損傷応答制御に重要な転写因子p53非依存的に、ミトコンドリア由来の活性酸素(ROS)産生上昇に伴うストレス応答性MAPキナーゼp38/JNKの活性化増強を介して、アポトーシスを促進することを明らかにした(Scientific Reports, 10(1), 2743: 2020)。そこで、DNA損傷の多様な様式間での細胞死促進機構を比較したところ、DNA鎖間架橋誘導剤であるシスプラチン処置時には、全く異なる分子機構で細胞死促進が起きることを見出したため、詳細に解析を行った。

 ヒト骨肉腫U2OS細胞を、代表的なTFAであるエライジン酸(EA)の存在下でシスプラチン処置した際の細胞死促進作用は、p53欠損によって顕著に抑制された。この細胞死促進作用は、JNK阻害剤、p38阻害剤またはNADPHオキシダーゼ阻害剤で抑制された一方、ミトコンドリア由来ROSの消去剤では抑制されなかった。また、この時EA存在下ではROS産生やp38/JNK活性化の増強が認められた。これらの結果から、EAなどのTFAは、DNA鎖間架橋誘導剤であるシスプラチン処置時には、NADPHオキシダーゼを介したROS産生やp38/JNK活性化の増強を介して、p53依存的なアポトーシスを促進することが示唆された。従ってTFAは、DNA損傷様式の違いが規定する、全く異なる細胞死誘導シグナルを惹起・増強することで、アポトーシスを促進し、関連疾患発症に寄与するものと考えられる。

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© 2021 日本毒性学会
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