【背景】免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は,非臨床モデルおよび臨床において抗腫瘍効果を示す一方で,免疫系に関連する有害事象をもたらすことが知られており,そのうちの主要なものとして肝炎が挙げられる。一部のICIにおいては,併用投与による肝炎の増悪が知られることから,その免疫学的機序の検討を試みた。
【方法・結果】PD-1-/-マウスに抗CTLA-4抗体(clone 9D9 mouse IgG2b, 300 μg/week, IV)およびindoleamine 2,3-dioxygenase 1(IDO)阻害薬(Epacadostat,600 mg/kg BID, PO)を単独または併用投与した。投与開始後2週間に肝臓の病理検査およびフローサイトメトリー法によるT細胞数定量を行ったところ,併用投与群で血清肝障害マーカーの有意な上昇および炎症を示す病理組織学的所見がみられ,T細胞数増加および活性化が認められた。次に,肝臓から単離したCD45(白血球共通抗原)陽性細胞について,10X genomics社のプラットフォームを用いてシングルセルRNAシーケンシングを実施し,T細胞受容体およびB細胞受容体レパトアおよび遺伝子発現プロファイリングを行った。その結果,併用投与群において活性化/疲弊化マーカーを発現するCD8陽性T細胞の割合が高く,ICIによる肝障害との関連性が考えられた。また,ICIの併用により,肝臓でのT細胞のクローン性が低下したことから,免疫レパトアは多様化することが示唆された。
【考察】ICIの併用投与時にみられる有害事象の一つである肝炎には,CD8陽性T細胞のポピュレーションが関与すると考えられた。また,本モデルを用いることで,種々のICIの併用投与による免疫介在性の肝障害の機序解明の一助となることが示唆された。