【背景・目的】致死的な薬物性肝障害(DILI)の背景機序は未だ十分に解明されていない。致死的DILIの特徴として障害の遷延化が挙げられる。肝臓は再生能力の高い臓器として知られ、遷延化するDILIでは何らかの理由で肝再生が抑制されている可能性が考えられる。他の報告で、炎症反応や線維化が障害時の肝再生過程で必須とされていることを踏まえ、我々は、致死的DILI発症薬が炎症反応や線維化に対し抑制的に働く可能性を考えている。実際に過去に我々が行った検討では、臨床で致死的肝障害報告のあるベンズブロマロン(BBR)を胆汁うっ滞モデルマウスに投与すると、肝障害が遷延し、同時に炎症反応や線維化が抑制されることも確認している。そこで本研究では、特に肝線維化と関連の深い肝星細胞に着目し、BBRの直接的な影響をin vitroの系で評価した。
【方法・結果】LX-2(ヒト肝星細胞株)にBBR 2 μMを曝露したところ、24時間後の時点で線維化マーカー(Collagen 1a1)やケモカイン(CCL2)のmRNA発現が有意に低下した。BBRの直接的な作用標的を絞り込むため、Toxicology in the 21st Centuryに登録されたin vitro試験データを参照した。当該データにおいてBBRの作用が陽性とされた項目のうち、特に線維化との関連が報告されている核内受容体のPXR、PPARγ、およびミトコンドリア膜電位に着目した。LX-2にPXRおよびPPARγの典型的なagonistを曝露した際に線維化マーカーのmRNA発現に変化は認められなかった。一方、ミトコンドリア膜電位の低下作用を有する脱共役剤CCCPを曝露したところ、BBR曝露時と同様にCollagen1a1、CCL2のmRNA発現が低下した。
【結論】BBRが肝星細胞による線維化・炎症反応を抑制すること、またこれらの抑制にミトコンドリア膜電位の低下が関与する可能性が示された。