非臨床毒性試験の評価は、トキシコロジストが長年の経験により蓄積された知見をもとに行い、収集した所見、測定値の変動のみならず、それぞれの関連性を総合的に判断して結論を導き出す。昨今では非臨床試験データの交換標準であるSEND(Standard for Exchange of Nonclinical Data)に準拠した電子データの導入も後押しし、単一の非臨床毒性試験のみならず、複数試験のデータを統合し、パラメータ間の関連性や、注目すべき毒性変化、検査に影響を与える因子を探索するような活動が積極的に行われる事例も見られ、データを可視化、解析することの有用性がさらに高まりつつある。非臨床毒性試験の有効な可視化を実現するには、トキシコロジーとデータサイエンスの知識、さらには可視化の技術が不可欠であるが、これらのすべてを兼ね備えた人材は、少ないのが現状である。そのため、トキシコロジストとデータサイエンティストがそれぞれの得意分野に基づき役割分担し、相補的なコミュニケーションの下に可視化・解析を進めることが必要である。しかしながら、バックグランドが大きく異なる両者のコミュニケーションにおいて、認識の違いが生じることが多い。そこで我々は、トキシコロジストが描く可視化・分析のイメージをデータサイエンティストが具現化する際におさえるべきポイントを洗い出し、ポイントについての共通認識を文書としてまとめることで、効果的なデータ可視化・分析を実現することを試みている。
本発表では、可視化・分析の目的、目的に応じた可視化・分析イメージ、イメージを具現化するために利用するデータ及びその格納方法・加工過程について、トキシコロジスト及びデータサイエンティスト双方の立場から議論してきた活動の中で得られた知見を紹介する。